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(2008/10/07更新、公開:2005/02)趣味で顕微鏡をいろいろ活用するためのメモ書きです。
自分で工夫したり、知人に教えてもらったり、いろんな本やWEBサイトで知ったことなど「こういう内容は、学校では教えてもらえなかったよな」と思うことなど雑多な内容ですが、顕微鏡初心者の方の参考になればと思って、まとめてみました。
顕微鏡には、学習用の安価なものから研究用のものまで、さまざまな製品があります。
下の写真では、オリンパスの古い研究用顕微鏡(左側:オリンパスGK型)とビクセンの学習用顕微鏡(右側:SE-1000)とを並べてみました。大きさや各部の仕様に違いがありますね。最初は安価な学習用顕微鏡で、いろいろ観察することから初めてもいいと思います。
目的がハッキリしているのなら、研究用顕微鏡から入ってもいいでしょう。例えば「キノコの胞子表面の模様を観察したい」という目的でしたら、油浸100倍の対物レンズが使える研究用顕微鏡を選べばいいと思います。
※学習用顕微鏡の購入を検討しておられる方には、 さとう博士の研究室の 「続 学習顕微鏡の世界」に学習用顕微鏡の比較を行ったレポートがあり、参考になります。昭和初期や中期の顕微鏡についてもレポートがあります。
研究用顕微鏡と学習用顕微鏡。やはり見え方には相応の違いがあります。古い研究用顕微鏡は、ネット上のオークションで格安で入手できることもあります。それなりのリスクはありますが、ジャンクコンディションとされるものでも、整備の仕方によっては使えるようになることがあります。
●ヤシマ顕微鏡とオリンパスGK型を比べてみました。
●理振準拠の顕微鏡を改造してみました。
●千代田光学製の携帯型顕微鏡Q
●KOYOの携帯型顕微鏡KM1
●千代田光学製の実習用顕微鏡FUR
●島津製の解剖顕微鏡
さとう博士の研究室の
ミクロの世界4(顕微鏡の観察、改造、自作)
を参考にして、学習用顕微鏡の改良をしてみました。改良といってもレンズや鏡筒内部の反射を減らすためにマジックペンで黒く塗ったり、黒い紙を筒にして装着したりしただけです。これだけでもコントラストが良くなって、結構見やすくなるものです。左が改良前、右が改良後です。写真でも像の白っぽさがマシになった感じがわかりますが、目で見るともう少し効果が実感できます。
暗くなりますが、円盤絞りの穴も黒い紙を貼り付けて、もっと小さな穴になるようにするのも効果があります。
どんな顕微鏡が必要かは、何を、どのように観察したいかで変わります。目的に応じた顕微鏡を選ぶことが大切です。
光学顕微鏡では、観察に光を使います。観察倍率は、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率をかけ合わせた数になります。安価な学習用の顕微鏡では200〜400倍程度、高級な研究用の顕微鏡でも1000〜1500倍くらいが限界です。ところで「倍率が高いほどよく見える」と思っておられる方が多いですが、顕微鏡でどのくらい小さなものを見分けられるかは、倍率では決まらないのです。
学生実習用や研究用の顕微鏡の対物レンズを見ると、いろいろな記号や数字が書かれています。
赤や黄色の帯色は倍率によって決められています。下の表は一例です。
倍率表示 | 4倍 | 10倍 | 20倍 | 40倍 | 60倍 | 100倍(液浸) |
開口数(N.A値) | 0.10〜0.20 | 0.25〜0.45 | 0.40〜0.75 | 0.65〜0.95 | 0.70〜0.95 | 1.25〜1.65 |
ここで開口数(かいこうすう:Numerical Aperture,単にNAともいう)という耳慣れない数値が出てきますが、この数値が大きいほど対物レンズの分解能(ぶんかいのう:小さなものを見分けられる能力)が高く、よく見えることを意味しています。
「なんだ、やっぱり倍率が高いほどよく見えるんじゃないか!」と思われた方、顕微鏡の観察倍率は、接眼レンズの倍率との積になることを思い出してください。
「対物レンズ50倍×接眼レンズ20倍での1000倍」と「対物レンズ100倍×接眼レンズ10倍での1000倍」では、同じ1000倍でもまったく意味が違うことになるので、注意が必要です。この場合、対物レンズの開口数が大きい後者の組み合わせの方がよく見えるはずです。当然のことながら、開口数の大きい対物レンズほど高価です。対物レンズの開口数をおよそ1000倍した倍率が観察に適した倍率といわれています。
対物レンズには、ほかにもいろいろな数値や記号が刻印されています。
160、170、210、∞(無限大)という表示は、その対物レンズを用いる鏡筒の長さ(mm)を表します。無限大の長さの鏡筒?とはヘンな感じですが、鏡筒の中に結像用のレンズが仕込まれているタイプの顕微鏡で用いることを前提に設計されていることを示しています。異なる長さの鏡筒で用いると観察倍率が表示されている値と異なってしまいます。
0.17という数値は、厚さ0.17mmのカバーグラスを使用することを前提に設計されていることを表しています(この厚さより薄くても厚くても見え方が悪くなります。スライドグラスやカバーグラス、封入液も光学系の一部と考えられるのですね)。
100倍のレンズにある黒い帯は、イマージョンオイル(=セダー油。ツェ−デル油とも呼ぶ。屈折率が1.515で、光学ガラスとほぼ等しい)で油浸して使うことを示しています。
また、40倍と100倍のレンズにある「Plan」という表示は、このレンズの作る像面が平坦で視野の周辺部までピントが合うことを示しています。
対物レンズの仕様には、アクロマート、プランアクロマート、プランセミアポクロマート(=プランフルオールともいう)、プランアポクロマートという区分があって、後者ほどよく見える高級なレンズと言えます。実習用クラスの顕微鏡ではアクロマート仕様の対物レンズが付いているのが普通です。安価な学習用顕微鏡では、単レンズの場合もあります。
開口数と分解能の関係は、
「観察に用いる光の波長÷対物レンズの開口数=分解能」となります。倍率は無関係ですね。
※正確には、「観察に用いる光の波長÷(対物レンズの開口数+コンデンサの開口数)=分解能」になるそうです。
可視光の波長は、およそ0.4〜0.8μm(=400〜800nm)です。波長0.55μmの光で開口数1.25の対物レンズとコンデンサを用いた時、理論上は、0.55÷(1.25+1.25)=0.22μmの分解能があることになります。照明などが理想的な場合の話ですが・・・。
コンデンサーと呼ばれる集光レンズがステージの下に付いている場合、機種によっては、コンデンサーにも開口数が表示されています。
コンデンサーの開口数が、対物レンズの開口数より小さいと、対物レンズの性能が発揮できず、よく見えなくなりますので、注意が必要です。
コンデンサーが付いていない簡易な顕微鏡で、観察倍率だけを高くなるようにしても、鮮明な像を観察することはできません。
こまめに手入れするのは面倒ですが、使い終わった顕微鏡は、きちんと手入れして保管しましょう。
湿度の高い日本では、きちんと保管しないとレンズにカビが生えたりして、せっかくの顕微鏡がよく見えなくなってしまいます。
<そろえたいお手入れ用品> ブロワー、柔らかい毛の小筆、やわらかい布、レンズ用クリーニングペーパー、レンズクリーニング液、プラスチック製のピンセット、つま楊枝など(レンズクリーニング液などは、カメラ用品店などで売っています)。 |
▼顕微鏡の手入れをする前には、手をよく洗って、油分を落としておきます。
▼水でぬれたところがあったら、やわらかい布などでよくふき取ります。
▼もし泥や砂粒などがレンズに付いてしまったら、ブロワーで空気を吹き付けて飛ばしたり、柔らかい毛の小筆でそっと掃き出したりします。とくかくレンズを傷つけないよう慎重に。
▼レンズの汚れは、レンズ用クリーニングペーパーでそっとふきます。油分が付いたような場合は、レンズクリーニング液を少し染みこませたクリーニングペーパーでふき取ります。中心から周辺へ向かってふくようにします。また、クリーニングペーパーの一度使ったところは、何度も使わないようにします。
▼倍率の高い対物レンズなどは、レンズが小さくて細かい作業になります。細かいところをふくときは、ピンセットや竹串などの先にクリーニングペーパーを巻き付けて使うとやりやすいです。きれいにふけたかどうかは、ルーペで見るとよくわかります。
▼きれいになったら、収納箱に入れて、できるだけ湿度の高くならない場所に保管するのが理想的です。毎日使うという方は、もっと楽な保管方法を工夫してください。
▼長い間使わない場合は、大きなビニル袋に吸湿剤などと一緒に入れて、密封してもいいでしょう。
※アポクロマートの対物レンズが付いたような高級な顕微鏡をお使いの方は、メーカー推奨の方法で、整備・保管してください。
※油浸レンズの使用後に、イマージョンオイルをふき取る必要がありますが、「石油ベンジン」を調合して用いると良いと教えてもらいました。商品名で「リグロイン」と「燃料用アルコール(メタノール)」を100対1〜3で配合して用います。どちらも薬局で安価に入手できる薬品です。
使用した油浸レンズをレボルバーから外し、実体顕微鏡下で見ながら、つま楊枝の先にレンズペーパーを巻き付けて、さっと乾拭きしてオイルを拭います。ペーパーを取り替え、「石油ベンジン」を少量付けて、レンズに残ったオイルを拭きとります。さらにもう一度乾拭きすると、レンズはピカピカです。(2005/04/20追記)
接眼ミクロメーター
接眼レンズの中に組み込んで使用する、精密な目盛りが刻まれた円形のガラス板です。
顕微鏡をのぞいたとき、観察している物とこの目盛りがちょうど重なって見えるようにし、大きさを測ることができます。
2000円台からありますが、接眼レンズの内の支持枠にちょうど合うサイズの物を購入しないと取り付けできません。また、接眼レンズによっては、取り付けられないこともあります。
10倍くらいの低い倍率の対物レンズでの観察では、この照明方法も使えます。
懐中電灯をアルミの針金で固定しただけです。
実体顕微鏡で見るより大きく拡大して、物の表面を見たいときにはよいです。
100円ショップで買った高輝度白色LEDライトとフィルムケースのフタで簡易照明を作ってみました。
低倍率での観察では明る過ぎるので、暗くするためにもう一工夫必要です。減光用に何かフィルターを入れるか、ボリューム(可変抵抗)を入れた回路にするか、ですね。できれば単3の乾電池で使えるようにしたいと思います。
LED電球を利用した簡易照明も作ってみました。家庭用電源100Vが使えます。
下記サイトに高輝度白色LEDライトを用いた簡易照明が紹介されています。
▼発光ダイオードによる照明→http://www2u.biglobe.ne.jp/~gen-yu/led.html
▼さとう博士の研究室・昭和中期の顕微鏡の世界(その4)OLYMPUS(GC)君LED照明化
→http://homepage.mac.com/satoh_j/microscope/orimpus_gc/gc_7.html
※LED常夜灯の簡易照明。私も真似して、オリンパスGK用に作ってみました(写真→)。なかなか良いですね。
(2010/08/08追加)
某100円ショップのLEDマルチライトが顕微鏡用に使えます。コンデンサーの下部に置いて、接眼レンズを御覗きながら光軸を合わせてやるといいでしょう。
少しまぶしいくらいの光量があるので、レジ袋の切れ端などを両面テープで貼り付けて減光してやるといいです。LEDが2つ付いていますが、貼り付ける切れ端の枚数を加減して明るさを変えてやると、低倍率用(やや暗め)と高倍率用(明るめ)と使い分けられます。
光学顕微鏡での観察では、透明で見にくい資料を見やすくするために、染色することもあります。学校の理科の授業で、酢酸カーミン(→細胞核の染色)やメチレンブルー(→細胞質の染色など)などの染色試薬を使ったことがあるという方もいるでしょう。しかし、個人の趣味では、なかなか入手が困難なこともあります。そこで、身近な日用品にもこれらの代わりになるようなものはないかと探してみました。
うがい薬(→きのこの胞子の呈色反応。メルツァー試薬の代用)
歯垢染め歯磨き剤(→細胞質の染色など。フロキシンの代用)
万年筆のカートリッジインク濃青色(→コットンブルーの代用)
など、意外と使えますよ。他にも探せば、見つかるでしょう。
もちろん、目的に応じた染色試薬を調達するほうがよいのですが・・・。
試料をできるだけ薄くすることが、顕微鏡でよく見るために必要です。試料を薄切りにするための装置として、ミクロトームというものがありますが、普通のミクロトームは大がかりな装置で趣味で買うには高価過ぎます。
発砲スチロールの「ピス」に切れ込みを入れ、そこに試料をはさんで、よく切れるカミソリの刃でピスごと薄切りにする方法が比較的簡単です。
詳しくは、
簡易ハンド・ミクロトームのメモ
を参照ください。
ここまで長々とした駄文を読んでくださった方には、お礼申します。さらに顕微鏡についての話を読みたい方にオススメなのは、 八王子のきのこ内の きのこノートです。顕微鏡の選び方などについて有益な情報を得ることができます。とくに研究用顕微鏡の購入をお考えの方には、ご一読をおすすめします。
また、光学顕微鏡・位相差顕微鏡の使い方ガイドでは、体系的に顕微鏡の種類やそれぞれの使い方を基本から学べます。こちらもオススメです。
●K-mal's HP >小さな世界を覗いてみよう >もっと顕微鏡を使うためのメモ